集団授業の限界とAI活用|塾講師が語る本音

塾にはたくさんの「先生」がいます。
でも、「エンジニア」はいません。

製造業はAIで生産性が劇的に上がりました。医療は診断精度が人間を超えました。金融、物流、農業——あらゆる産業が、テクノロジーによって根本から変わりつつあります。

なぜ、教育だけが10年前とまったく同じやり方なのでしょうか。

私は大手進学塾で3年間、数学講師をしながら、AIコンサル会社を経営してきました。教室で生徒と向き合う日々と、企業のDXを推進する日々。まったく異なる二つの世界を行き来してきたからこそ、見えてきたことがあります。

進学塾で見た「現実」

下のクラスの生徒は、宿題をやり切れていない

私が教えていたのは、東大・医学部を目指す生徒が集まる進学塾でした。優秀な中高生が集まる場所です。

でも、下のクラスに行くと、景色は一変します。

ほとんどの生徒が、宿題を終わらせていません。

宿題は膨大です。数学だけで毎週数十問。それを複数科目こなさなければならない。上のクラスの生徒は、当たり前のようにこなします。でも、下のクラスの生徒には、その「当たり前」ができない。

量が多すぎる。前の単元が理解できていないから、新しい問題が解けない。質問したいけど、授業中に手を挙げる勇気がない。家で一人で考えても、わからないまま時間だけが過ぎていく。

そして月曜日が来る。宿題は終わっていない。でも授業は進む。
「できない」と言い出せないまま、次の単元に入っていくのです。

先生がチェックする時間がない

私も講師として、30人の生徒を担当していました。週に一度、3時間の授業。その中で新しい内容を教え、演習をさせ、質問に答える。

一人ひとりの宿題を見る時間なんて、どこにもありません。

「宿題やってきた?」
「はい」

それで終わりです。ノートを開いて確認する時間はない。本当に理解しているのか、どこでつまずいているのか、誰も把握していない。生徒が「はい」と言えば、それを信じるしかないのです。

テストは毎週あります。点数を見れば、誰ができていないかはわかる。でも、だからといって特別なフォローがあるわけではありません。

それを責める気はないのです。集団授業とはそういうものですし、塾だって経営があります。30人の生徒に個別対応していたら、コスト的に成り立たない。だから仕方ない——ずっとそう思ってきました。

でも、AIがこれだけ発達した今、本当に「仕方ない」で終わらせていいのだろうか。コスト構造そのものを変えられるのではないか。そう考えるようになりました。

結果、できる子とできない子の差が開くだけ

上のクラスはどんどん伸びます。自分で計画を立て、自分で勉強できる。わからないところは自分で調べる。そういう「自走力」がある生徒は、塾のカリキュラムを最大限活用できます。

でも、下のクラスは違う。サポートが必要な生徒ほど、サポートを受けられない。先生の目が届かない。質問もできない。宿題は溜まる一方。そして、どんどん置いていかれる。

皮肉なことに、「できる子」はほっといても伸びるのです。本当にサポートが必要なのは「できない子」のほう。でも、現実には逆のことが起きている。

これは、どこの塾でも多かれ少なかれ起きていることだと思います。集団授業の構造的な問題です。

AIコンサルとして見た「別の世界」

塾で教えながら、私はAIコンサルタントとしても働いていました。製造業を中心に、業務効率化のプロジェクトをいくつも手がけてきました。

そこで見た世界は、教育とはまるで違うものでした。

製造業はAIで変わった

ある工場では、品質検査をAIが担当しています。製品の画像を撮影し、微細な傷や歪みをミリ秒単位で検出する。人間の目では見逃してしまうような欠陥も、AIは見逃しません。しかも24時間、疲れることなく稼働し続けます。

生産計画もAIが最適化しています。需要予測、在庫管理、物流の手配——膨大なデータを分析し、最も効率的な計画を立てる。人間がエクセルで何時間もかけていた作業が、数秒で終わります。

結果、何が起きたか。人間は「AIにできないこと」に集中できるようになりました。新しい製品のアイデアを考える。顧客と信頼関係を築く。現場の改善提案をする。本来、人間がやるべきだった仕事に、ようやく時間を使えるようになったのです。

医療もAIで変わった

医療の世界では、画像診断の精度がすでに人間の医師を超えています。CTやMRIの画像から、がんの兆候を見つける。人間なら見落としてしまうような微細な影も、AIは検出します。

ある病院では、AIによる診断支援システムを導入したことで、がんの早期発見率が大幅に向上しました。見落としが減り、早期に治療を始められるケースが増えた。それは、文字通り人の命を救っています。

医師たちは「診断」に時間を取られることなく、「治療」と「患者とのコミュニケーション」に集中できるようになりました。AIが得意なことはAIに任せ、人間にしかできないことに注力する。それが、医療現場の新しいスタンダードになりつつあります。

なぜ教育だけが変わらないのか

黒板とチョーク。紙のテスト。一斉授業。
私が子どもの頃と、ほとんど変わっていません。30年前とまったく同じやり方で、今も授業が行われています。

タブレットが導入された? 動画教材がある? 確かにそうかもしれません。でも、それは「紙がデジタルに変わった」だけです。本質的なやり方——先生が一方的に教え、生徒が受動的に聞く——は何も変わっていない。

製造業も医療も、テクノロジーによって「やり方そのもの」が変わりました。人間とAIが協働する、新しい仕組みができました。でも教育だけが、取り残されている。

なぜでしょうか?

答えはシンプルです。
塾にエンジニアがいないからです。

教育のプロだけでは、教育は変えられない

優秀な先生は「教えるプロ」

誤解しないでください。塾には優秀な先生がたくさんいます。説明がうまい。生徒のモチベーションを上げられる。進路指導もできる。受験のノウハウを熟知している。

でも、AIの活用法は知りません。システムを作ることはできません。「テクノロジーで教育を変える」と言われても、何から手をつけていいかわからない。それは当然です。彼らは教えるプロであって、エンジニアではないのですから。

エンジニアは「効率化のプロ」

一方で、世の中にはエンジニアがたくさんいます。AIで業務を自動化できる。データを分析して、パターンを見つけられる。製造業や医療で革命を起こしてきた人たちです。

でも、教育の現場を知りません。生徒がどこでつまずくのか。どんな言葉が響くのか。受験のプレッシャーとどう向き合うべきか。そういうことは、教室に立ったことがなければわかりません。

テクノロジーを使えば教育は変えられる——その可能性は誰もが感じています。でも、「教育のプロ」と「テクノロジーのプロ」が同じ場所にいない。だから、何も起きないのです。

両方がいる塾が、今までなかった

製造業には、現場を知るエンジニアがいます。医療には、臨床を経験した情報工学者がいます。でも教育には? 教室で教えながら、AIシステムも作れる人間は、ほとんどいません。

だから、教育は変わりませんでした。

受験を勝ち抜いた講師と、AIを使いこなすエンジニア。この両方がいる塾を、私たちは作ることにしました。(講師紹介はこちら

テクノロジーで何ができるのか

「わからない」に、24時間対応する

夜中の11時。明日のテスト範囲を勉強していて、どうしてもわからない問題に出会う。先生に質問したいけど、もう塾は閉まっている。親に聞いても、数学はわからないと言われる。

こういう瞬間が、学習の分岐点になります。ここで諦めてしまうか、なんとか理解しようと粘るか。でも、助けがなければ粘りようがない。

AIなら、24時間対応できます。夜中でも、朝早くでも、いつでも質問に答えられる。何度同じことを聞いても、怒られません。「こんなこともわからないの?」とは言われません。恥ずかしいと思う必要がない。

先生が寝ている時間も、AIは稼働しています。

弱点を「可視化」する

塾で見た光景を思い出してください。「宿題やった?」「はい」で終わる確認。本当に理解しているのか、誰もわからない。

でも、データを見れば一目瞭然です。どの問題に時間がかかったか。どこで間違えたか。同じタイプの問題で繰り返しつまずいていないか。

「宿題やった?」ではなく、
「二次関数の場合分けで苦戦してるね。ここを重点的にやろう」と言えるのです。

弱点がわかれば、対策ができます。限られた時間を、最も効果的なところに使えます。闇雲に問題を解くのではなく、自分に必要な学習ができる。それだけで、学習効率は劇的に変わります。

でも、人間にしかできないこともある

テクノロジーは万能ではありません。

受験前の不安を聞いてあげること。志望校を一緒に考えること。「君なら絶対できる」と背中を押すこと。勉強以外の悩みに寄り添うこと。

これは、AIにはできません。人間が、人間に対して行うことでしか、伝わらないものがあります。

だから、テクノロジーと人間の役割分担が必要なのです。AIが得意なこと——24時間の対応、データ分析、反復練習——はAIに任せる。人間にしかできないこと——モチベーション管理、進路相談、メンタルサポート——は人間がやる。

その両方が揃って、初めて「一人ひとりに最適化された学習」が実現できるのだと思います。

教育を変えたい

「できる子」だけが伸びる時代を、終わらせたい。

自走できる生徒は、どんな環境でも伸びていきます。でも、サポートが必要な生徒は、今の仕組みでは置いていかれる。それは、教育の敗北だと思うのです。

テクノロジーを使えば、一人ひとりに目が届きます。誰がどこでつまずいているか、リアルタイムでわかります。必要な生徒に、必要なサポートを、必要なタイミングで届けられます。

製造業や医療が変わったように、教育も変われるはずです。私たちは、その第一歩を踏み出しました。

塾にエンジニアがいる。それがどんな意味を持つのか、これから証明していきたいと思います。

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